2022年以降の旅行業

私は数社会社を経営している。
その中には旅行会社と貸切バス会社がある。 それらは観光業であり、まさにコロナの影響をまともに受けている業種。

・・今後この業界はどうなっていくのか?・・
観光業に関わらず、今は人と接する可能性があるサービス業はどの業種も苦しい。何とか立ち直る機会を待っている。
今後は、需要が戻りなんとかなるのか?
ハッキリ言おう
なんとかならない。。。。
2022年後半から3~4年間で、これから旅行会社・貸切バス会社は解散や倒産が頻発する。

多くの企業では今まで据え置きだった「コロナの緊急融資の返済」が今年から全国的に始まる。 売上はほとんど回復していないのに、毎月数十万の返済が追加され重くのしかかる。
勿論、これが引き金になる可能性が高い。
それらは観光業だけでなく「飲食業や他の業種でも一緒」だと言う人も大勢いるだろう。
違うのだ。。。。この業界はもっと深刻なのだ。。
旅行会社・バス会社などは、これから景気回復・業況・経営を改善したとしても、 今後は解散・倒産の方向へ向かう確率の方が高いのである。
インターネットを使え!事業を再編しろ!顧客のニーズを掴んでいない・・・・そう考える人も多いだろう。
そういう事ではない。論点が全く違う。

「なんとかならない」のは何を隠そう、観光業界の法律が大きく影響しているのである。

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旅行会社・貸切バス会社は5年に一度更新の届出が必要になる。
その更新条件の一つの中に大きな課題が発生する。 双方とも「債務超過は事業の更新できない」という事である。

「債務超過」とは、会社の資産「所有物や現金の合計」が債務「借入金」より少なくなる事。 簡単に言えば「資産<借金」 という事。 私財を全て売っても借金を返せない。
経営は自転車操業に入っており非常に厳しい状態。

「旅行会社」であれば、旅行の施行日より顧客は支払いを先に行う。旅行業務とは旅行日前にお客様から大金を預かるのが仕事である。 債務超過であれば、お客様の預かり金から旅行施行日の前に、旅行代金が一時的に他の案件を支払う為の現金になってしまう。

「バス会社」であれば、ガソリン代・高速代・運転手の人件費は削れない。必要最小限の経費は必要。

従って、双方の事業とも法律では債務超過では更新を認めないのである。 飲食や他業種とは違い、旅行業・バス会社は、会社に利益が発生しているか、潤沢な資本を持っていないと事業継続できない業種なのである。

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今回のコロナ騒動では、業界全体が多くの借金をした。勿論当社も同様である。
普通の経営なら銀行からの借入は決して悪い訳ではない。 但し観光業は注意が必要。
資産(不動産や所有物)の購入「先行投資」になれば、資産も負債も事実上バランスシートは変わらないので問題ない。 一方で借入を人件費や家賃「経費」で使ってしまうと、資産(現金)が減り、借入金(負債)だけが残る。
今回の様に、売上が無く、経費だけ払ってれば、瞬く間に「債務超過」になってしまう。

大手旅行会社は今回の事業更新の危機を良くわかっている。
仮に現金を増強して、現状を乗り切れてもその方法が融資(借入)ではダメという事。 使った経費分の現金は、借入ではなく、資本の増強で行わなくてならない。
最大手のJTBは政府系金融機関の日本政策投資銀行に「優先株」を引き受けてもらう提案をしている。 日本旅行の親会社はJR。近畿日本ツーリストの親会社は近鉄。 だから旅行会社経営が赤字で現金が必要な時は、融資ではなく 全て親会社が(増資)して資本の積増しをするはずである。

一方で中小の旅行会社はここまで頭が廻らない。 今を生きるのに精一杯で、事業更新の問題まで考えられない。 投資(資本の増資)ではなく、ほとんどが銀行に飛び込み、銀行融資(借入金)に走った。
しかし、それは仕方がない事。
守ってくれる親会社は存在しないし、赤字の中小旅行会社の株を購入してくれる奇特な人がいるわけない。 中小零細企業にとって、銀行融資しか今を乗り越える方法は存在しないのだ。

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貸切バス会社はもっと深刻である。以下の一文が重くのしかかる。
「許可を申請する年の直近1事業年度において申請者の財務状況が債務超過でないこと。かつ、直近3事業年度すべての財務状況が債務超過でないこと」

端的に言えば決算書が債務超過でなくても「3期連続で赤字」だと貸切バス事業は更新できないのである。
コロナ禍になって早2年。この間に利益を出せた貸切バス会社は存在するのか?
後は残り1年しかない。この最後の1年間で黒字を出せないと、会社自体に現金が沢山あっても、現行の法律ではバス事業が更新できない。
これは、旅行会社のように「増資等の帳簿操作」では絶対に不可能。
  会社として「単年で利益」を出す事が必要なのである。
バス会社は、バス事業で現在赤字ならば、 あえて副業を行い、バス事業と副業のトータルで黒字化を達成していないと事業更新が出来ないということ。
 
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少し脱線するが、私自身が旅行会社・貸切バス会社設立の時に考えた事を書いてみる。

・・・別会社にしよう・・・
私は25年近く会社を経営しているが、経営能力が低いので「債務超過」も数年経験している。 「債務超過」になると 銀行の融資はほとんど不可能。お金の審査は投資も融資もほとんど落ちる。 債務超過状態で経営する地獄の苦しみは散々味わってきた。

上記したように、旅行会社は債務超過が許されない。 もし、会社内で旅行事業・美容事業などと多角化して、 美容事業が赤字になり、会社全体も赤字になれば、旅行会社として事業更新ができなくなる。

だから今までの「サンファイブ」という母体の会社と分けて、 旅行だけを扱う、別会社「ボックスツアー」を立ち上げた。
連結決算にしない別会社なので前の会社と資本関係が無くす必要がある。
資本金・設立費用・更には旅行会社としての事業担保の供託金
ゼロから会社を作り直すので、1千万単位の工面が必要。設立時は資金繰りに奔走した。

でも別会社にしたメリットは大きい。
このようにすれば「ボックスツアー」の企業経営で、赤字案件は「サンファイブ」に持っていけばいい。 「ボックスツアー」は黒字案件のみ取扱う事で、5年毎の旅行業の事業更新が無事に出来る。 また、「ボックスツアー」が赤字になれば、「サンファイブ」より黒字案件を業務移管で持ってくればいい。 実際の業況に関わらず、黒字化できる体制を作る事で、「ボックスツアー」の会社自体や従業員の雇用も守れる。

・・・リースは極力使わない・・・
貸切バス事業を創めるにあたって、心に決めた事がある。 リース契約でバスを保有しない。 勿論リース自体を否定している訳ではない。 でも当社の様な零細企業にはリース契約は諸刃の剣だと思っている。
前にも書いたが、リースとローン(割賦)の違いを簡単に書く。

リースのメリットは大きい。
リースなら長期間借りているだけなので、毎月購入費用と同じ価格程度で最新の車輛を使える。
借りているだけなので、決算処理も要らない。リース料として100%経費で落とせる。
所有権の移転がないので、審査が早くて簡単。会社が赤字でも、決算書が悪くても、何台も高額の契約ができる。
年間数億程度の利益しかないLCCなど格安航空会社は、1機数十億の航空機は買う事は出来ない。しかしリースなら契約できる。

リースのデメリット。
所有権がリース会社なので、車輛を勝手にいじったり転売できない。
契約期間は途中解除できない。車輛を使っていなくても、契約期間中はリース料を払わなくてはいけない。 そして契約期間は原則変更できない。

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「貸切バスの事業開始時の車両導入にリースを利用はしない。」 正直、この考えが正しかったと思う。リースの支払いが毎月無かったのでコロナ禍を生き残ったと思う。

倒産している多くのバス会社はリース契約が重く負担になっている。
大型観光バスは1台5000万。車輛償却の6年リースなら支払いは1台当たり毎月70万。 バスが稼働せず、売上が0の時、 従業員を休業させ、諸経費を待ってもらっても、駐車場代と高額なリース料の支払いは必要。
キャッシュはどんどん無くなる。

当社の車輛は中古の改造車輛。お世辞にも最新設備で綺麗とは言えないが、全てが購入済みの車輛。
車輛を購入すれば現金が減っても、車輛を資産に計上できるので、決算書はそれほど悪くはならない。
しかしリースは、支払分の現金が資産から純粋に減るだけである。
また購入車輛で営業していれば、車輛を売却して現金化する事もできる。
創業期はこれでいい。新規ビジネスの未来の行く末は正直誰にも分からない。 顧客が定着し売上や会社が安定したら、将来は綺麗な最新車輛のリースでも一向に構わないと思う。


・・・結論として・・・
自画自賛する訳ではないが、私の観光業に対するリスクヘッジは今回のコロナ禍では機能したのだと思う。 当社は、旅行会社・バス会社共に事業更新の要件は、現在でもなんとか満たせている。

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コロナ禍が収まれば黙っていても消費者は旅行に行くから GOTOトラベル2.0は必要ないという人も多い。
しかし法律は簡単に変えられない。今から旅行業の事業更新の改正法案提出しても今年中には間に合わない。 今年・来年更新の旅行業・貸切バス会社はもう救われない。
政府ができる事は、GOTOトラベルを施策し、 単年だけでも黒字化させて「事業更新」できる可能性を付与する事。 自民党の観光業を支持母体とする国会議員が利権でGOTOトラベルを行っているという世間の風潮だが、 GOTOトラベルは業界への景気浮揚策だけでなく、観光業の法律問題を知っている国会議員だからこそ施行した理由もある事を付け加えておく。

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最後にもう一度書いておこう。この業界に今後訪れる危機を知ってもらいたい・・・・

コロナ禍になって既に2年が経過した。この2年間、観光業の多くは債務超過になり黒字化できていない

これから5年間に全ての旅行会社は更新を迎える。
これから5年間に全ての貸切バス会社も更新を迎える。

赤字経営でなんとか生きていても、債務超過では事業更新は出来ない。
債務超過でなくても、3期連続で赤字決算だと事業更新は出来ない。

3年後には一体何社生き残っているのだろう?



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2022年02月06日付

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