新しい事業

コロナ禍になり、世の中は大変なことになった。
特にサービス業や、人が動いたり、コミュニケーションを図る事業は火の車になった。
政府は緊急で困った企業に融資をほとんど無審査の状況で実行した。 当社も含めて、皆銀行で漁るように融資を受けた。
今まで経験したことの無い未曽有の危機。この様な事態では確かに仕方が無いとも思う。

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でも考えてほしい。融資とは借金。 借りた金は返さなくてはならない。
事業での借金は「売上」を増やしても返せない。「利益」を増やさないと返済は出来ない。

仮に、コロナ前に経済が戻ったとしても、「売上」はコロナ前の状態に戻るのか?
「売上」が元に戻っても、「利益」がコロナ前の経営よりも上がるのか????
分かりやすく言えば、多額のコロナの借金を返すのに、 コロナ前のビジネスモデルよりコロナ後はビジネスや会社を大きくして「利益」を多く出さなければ借金は返せない。

本当にそんなことは出来るのか?
でも、それが出来なければ世の中から抹消される。 コロナ後に求められるのは「売上以上に、利益自体を増加させる業務スキーム」
そこまで考えて融資を受けた中小零細企業はどのくらいあるのだろう?

きっと多くの企業は借金が返せない。
融資のおかげで何とか今を生きるキャッシュは少額持っているが、 今後の事業で2019年より利益の増えない企業はいずれ倒産すると思う。将来、未曽有の倒産ラッシュが起こる可能性が高い

一方で、観光関係や交通機関の大企業は、資本性劣後ローンで政府が援助している。
このローンの特徴は借金返済の順位が低い。分かりやすく言えばこの借入の返済は一番最後でいい。返せる時に返せばいいのだ。 借りる側はメリットが多い。
しかし貸す側は回収が難しくなる。だから金利が高い。そして回収不能になれば貸した金がその会社の資本に組み入れとなる。 貸した銀行や保証している政府は、返済が出来なければその会社の株式を握り、直接経営参画する事となる。
でも一般貸付でなく、政府の後ろ盾でこの融資を実行しているという事は、 「大企業ですら返済できない可能性がある」と国が示しているのと同じではないか? 政府やメディアはあえて公表しないが、現実の経済回復ははかなり厳しいと言わざるを得ない。
結局、借金を返済できなければ中小企業は淘汰されるが、大企業は潰さないという事。なんとも羨ましい限りだ。

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私は旅行会社を経営している。毎日多くのツアー商品を販売している。
その延長でバス事業部を作る事にした。
外部のバス会社に委託しなければならない業務も、自社内で完結出来る。 それだけで経費の削減になり外注費分の経費を利益にすることが出来る。
また、新しいビジネスとして、自社の旅行だけでなく、他社にもバスを貸すことで 新しい利益を創出することもできる。

コロナ後に観光産業が元の需要に戻る保証はない。
しかし、旅行会社・宿泊施設・交通機関等は今回の災害で多くが淘汰された。
もし観光需要が回復すれば、消費者の需要は増える一方で、貸切バスの供給会社は減っている。 マーケティング的に、バス会社として今から参入しても勝算があると踏んだ。

眼で見える世の中の現実と、頭の中で考える未来予想。 結局、世の中の動きと反対に動かなくてならない。
コロナ禍で将来が見通せなく、かつ需要自体が減っているタイミングでの新規業態への挑戦。
株式相場で例えるならば、私だけ逆張り。相場が下げ続けている時にあえて買いを入れる。
怖くないと言えば嘘になる。でも必要なのは、「自分を信じる事」と「勇気」そして「行動」のみ

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貸切バス事業を始めるには国土交通省の運輸局に認可を取らなければならない。

貸切バス事業が許認可制になった最初のころは新規参入が相次いだようだ。 しかし競争が激しくなり、価格優先で安全がないがしろにされていく。
数年前の軽井沢スキーバス事故より、一気に規制が厳しくなった。

今は貸切バス事業参入には物凄くハードルが高い。
むしろ企業数が増えすぎて、国交省の安全対策等の要望に対応できない中小企業は業界からの退出を促している。 タイミングが悪いことに、我々の様な中小零細企業は容易に新規参入が出来ない状況になってしまっていた。

結局・・・
規制緩和という方針から、国の方向性が変わり安全確保のために資金とマンパワーが無い企業は、 この業界には不必要だという結論。

とにかくお金がかかる。

バス事業には駐車場も事務所も借りなければならない。
しかし第1種・第2種住宅地域は認められない。商業地域か工業地域になる。 東京23区では90%以上が第1種・第2種住宅地域。事業を開始できる適応物件はほぼ無い。 仮に商業地域にあったとしても、繁華街や駅前などの商業地域の家賃がべらぼうに高い。
更に物件があったとしても、バスの出入りする駐車場前の道幅も規制がある。 大企業は巨額の資金で駐車場や事務所の土地の取得も何とか出来るだろうが、我々にはほぼ無理だ。

消火器の設営も含めたバスの改造費や維持費も高い。バスなどの事業用車輛の任意保険代は、自家用車の3倍もする。


一番の問題は人だ・・・

国家資格として、最初は整備士1名・運行管理者2名以上必要。
車輛数以上のドライバーも必要で全て大型及び中型の2種免許保持者を集めなくてはならない。 1名でも欠ければ認可が取れない。業務開始後でも1名でも不足したら運行自体をを止めなくてはならない。

総人件費もかなりの額になる。仕方がないので私自身も50を過ぎて運行管理者の国家資格を取得する事になる。
3日間の眠い講習を受けないと受験資格が与えられない。その後に国家資格を独学で勉強する。 まあ受験者の30%は合格するので超難関な国家試験ではないけれど・・・

申請後に書類審査があり、それをパスすると、最後に関東運輸局で申請会社の取締役が試験を受ける。これが曲者。
安全を担保する会社の経営者として相応しいかどうかの試験。
道路運送法・道路交通法・労働基準法・自動車運送業経営等の出題がある。 人間の命を預かる運送業の取締役の資質として法律の熟知が求められるようだ。
これは正答率90%以上を要求される。2回落ちると申請は全て却下されるだけでなく、 その取締役では2度と再申請できない。皮肉なことに、この試験が許認可の一番最後にある。
万が一落ちたら、今までの努力や、駐車場の物件確保や人事採用の全てがご破算になる。 今までの経費も当然全て無駄になるので絶対に落ちる事は許されない。 はっきり言って「落とすための試験」。
幸いにも私は、運行管理者の国家試験を受けていたので、類似問題が多いので何とかクリアーできた
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それでも何とか認可までこぎつけた。10月に関東運輸局より許可証が無事発行された時は安堵した。
今思えば、大企業ならプロジェクトを立上げて、予算を組んで選抜メンバーを選べば、経営者が関知せずとも進捗するだろう。
私の様な零細企業の経営者は、自分1人だけとは言わないが、私自身や各スタッフが多くを担当しなくては先に進まない。 50半ばで、ゼロから物事を起こすのはそれなりにエネルギーがいる。
でも勝負はここからが本番。
考えてみれば、終わったのではなく、やっとスタート地点に着いただけ。

私の挑戦は、まだ続けなければならない。
年をとっても、お金は増えずに苦労ばかりが増える。
不器用な生き方だと思うが、 それでも、これが私の生きる道なのだろう・・・・
自分の会社の為にも、多くの企業の為にも、この国の経済が回復する事を心より祈念している。

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2021年11月15日付

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