退職後、独立店舗開業
プロゴルファーの皆様にとっては、自分のレッスンスタジオを持つことは夢であると思います。
その夢に向かっていく事は素晴らしい事だと思います。
いつか迎えるであろう新規店舗の開業における注意点を上げてみましょう。
私自身は、ゴルフ屋の社長でもありますが、美容関係の店舗も数店舗運営しています。
雇用している以上、従業員の退職は不可避です。
退職には様々な理由があります。
他店へ流れる者。結婚退職するもの。妊娠して療養が必要な者。業界から去る者。他店からの引き抜き。
そして、独立開業する者も少なからずいます。
ここでお話するのは、今まで勤務した店舗を離れて、個人での独立開業についてです。
何処のお店でも、「エース」と呼ばれる売上が取れる従業員は存在します。
店舗運営は、この従業員が居ないと売上が取れないと考えがちです。
反面、従業員も自分には集客力・接客力・営業力が備わっているという思いが強くなります。
そのようなスタッフは、給料を貰っているより、自分で運営した方が効率も良いし、稼ぎも良くなると考えます。
テレビ局のアナウンサーが、独立してフリーになるのと動機は似ていると思います。
しかし「独立」という選択肢には慎重になって下さい。
商売は思った以上に単純ではありません。冷静に分析して下さい。
アナウンサー独立の話で言えば、年に数名のアナウンサーが局を退職してフリーになりますが、数年後もテレビにいつも出られているのはホンノわずかです。
フリーになると様々な状況での対応力が求められます。
そこに順応できるか?視聴者から指示され続けるか?
今までは守られてきました。周りの人が守ってくれていました。苦手な部分や出来なかった部分、視聴者が支持してくれない部分は代役がやっていたのです。
しかし独立後は全て自分で対処していかなければなりません。
多くのアナウンサーは在局中はディレクター・プロデューサーやアナウンス室長が、そのアナウンサーの個性を把握し、
適材適所の個性が出やすい、一番いい状態で使われていた事を気が付きません。
良い所だけを見出して、そこを強調してくれる人がいた事。それが人気の秘密だったのです。
「エース」と呼ばれる営業マンも、その人の人柄だけでエースになった訳ではありません。
その店舗の立地、営業時間、運営方針、廻りのスタッフの協力があって初めて「エース」になるのです。
他店にスカウトされて、潰れた者も多くいます。それは環境が変わり自分の力が発揮できなくなったからです。
結局、どれも自分1人の力で人気が出た訳では無いのです。
手助けしてくれる人、協力者、そして廻りのインフラ(自分を取巻く環境)も大きく起因している事。
自分自身の力なのか、それとも廻りがあって成功できることなのか、冷静に鑑みなくてはいけません。
話は変わりますが、
経営側として独立するときに気になる問題を幾つかあげてみます。
今でも職業選択の自由に抵触する可能性があるので度々議論されますが、
企業によっては、退職後1年以内に同業に再就職並びに、同事業を開始する事を禁じる企業もあります。
コンサルタントや外資企業は、自社企業や取引先の秘密を知る者が、ライバル会社に簡単に情報をリークする事を禁じる為に
このような取り決めは今でも当たり前のように行われています。
企業情報を2次利用したり、他社にリークする事は御法度中の御法度です。
まず、お世話になった自社に迷惑を掛ける事を行ってはいけない。
同業を行う場合はきちんとその旨を報告し許可を取る。
これは社会人として当然のモラルであると思います。
これが出来なければ、最終的に業界から干されてしまいますし、このような事をする人間には顧客もついていきません。
もう一つよくある事があります。
既存店舗の顧客を、自分の退職時に引き連れていく行為です。
そして、既存店舗の近くで自分の新店舗の営業を開始する。
これは、どの業界でもある行為です。そしてこれをやると業界からは嫌われます。
しかし私も自社の従業員が退職する際に今までに数回も経験しました。
私の知る限り、その方式で成功した店舗(現在も経営している)は1店舗もありません。
そんなのは顧客を奪われた側の「負け惜しみ?」「経営者の恨みつらみ?」「顧客を奪われた腹いせ?」
と思っている人は経営には向きません。全くの素人知恵レベルです。経営学的にもきちんとした理由があります。
恐らく既存顧客を引き抜いて新店舗に顧客を引導する際は、
「今の店舗から遠ければ来てもらえないから近くに出店する」という発想になるのです。
だから既存店舗の近くに物件を探し出店する。そして既存店舗から自分の顧客を持っていく。
この短絡的な考えが致命的な経営の失敗になるのです。
店舗運営で一番大変なのは顧客の獲得です。
確かに最初は良いのです。何故なら開業時に前店舗から引き連れてきた顧客が大勢いるのですから。
しかし、時間がたつと顧客は必ず離れます。顧客は永遠ではありません。10年継続するのは200人に1人位です。
自然に退会する人も出てきます。前の店舗に出戻りする顧客も出てきます。
残念ながらこれはどの商売でも一緒なのです。従ってどの商売でも新規顧客を必ず獲得しなければいけません。
この時に、思い知ります。
新規顧客を獲得する際には、思っている以上に広告費や予算や時間が必要な事。
例えば、エステサロンでは一人獲得するのに10万円という指標もある位です。
同時に自分の犯した失敗に気が付きます。
気が付けば自分と同じ業種のライバル店が自社店舗のすぐ側にあって、そのライバル店舗が思った以上に強力なので自店の新規集客の妨げになっている事。
そう、そのライバル店舗こそが、自分が退職前に所属してた店舗なのです。
同じエリアに同業種が2店舗あるわけですから、自店を有利に展開するには
広告を大量に入れて知名度を上げるか、サービスを拡充するか、商品価格を下げるか。という手法を取らざるを得ません。
どれを取ってもコストが掛かります。双方の店舗間の予算の投入合戦になります。結局企業体力のない店舗が先に淘汰されます。
前の所属店舗で集客出来ていたなら、その理由として自分の実力はその内の半分程度。
自分が独立する前に、自分への顧客が沢山ついていたのは、
自分の力量だけでなく前の店舗のロケーション・スタッフ・客層・施設・内装など、店舗自体の存在が強かったことに気が付くべきです。
その前の店舗近くに新しく自分の店舗を作るという事は、
前の店舗に絶対に勝てる要素を持っていない限り、決して出店すべきでは無いのです。
私は、独立する際は、既存店舗や業界にライバルを作るのではなく、
協力者を如何に多く作れるか?という事が大事だと思います。
ビジネスは一人では運営できません。業界へのコネや信頼も大事です。
そして悪い風評やイメージが一度付いたら簡単に払拭できません。
新規出店を応援する人たちは沢山いるかもしれません。
しかしその人達の多くは応援こそしますが、経営に困った時に助けてくれる人ではありません。残念ながらそれが世の中です。
経営には必ず波風が立ちます。経験と知識が無い船長にはその嵐を越えられません。
だから、その嵐を乗り越えてきた見識者の協力やアドバイスが不可欠なのです。
自分の人格を磨き、多くの人達に信頼関係を構築し、今まで関わってくれた人達へ感謝して、
最終的に多くの人達に自分の協力者になってもらう事。
これが独立の秘策かも知れません。
人間力を磨く事に、遅過ぎたという事はありません。
これからの人生でも常に心掛けていて欲しいと思います。
それでも独立開業する事は、業界発展には良い事です。
そして自分の夢を実現する事は素晴らしい事です。
皆さんの独立への夢に心からエールを送りたいと思います。
次回へ
2017年3月16日付