起業家と企業家

ベンチャー企業の代表や新規に会社を興した社長は起業家と呼ばれます。
今まで無い物を提案したり新しく創る事を、会社という存在を通して社会に提案する事かもしれません。

一方で企業家とは、既存の商品を次のステップに引き上げる。お店という単体から会社に組織変更する。
小さな会社を大きく変貌させる。そのような事かも知れません。

分かりやすく言えば
起業家の仕事は 0⇒1又は 0⇒10にする事。企業家は10⇒100 100⇒1000という事。


過去には優れた起業家であり企業家もいました。
世界でも有名な所では「HONDA」の創設者、本田宗一郎や「PANASONIC」の松下幸之助。
48歳で自宅の小さな小屋の中でインスタントラーメン開発で起業した安藤百福「日清食品」も立派な起業家であり企業家です。

同じ「きぎょうか」という発音ですし、経営者という共通部分が多いですが、仕事内容とスキルは大きく異なります。 実際はその両方に長けている人材は実は多くはいません。

起業家に必要なスキルは前に述べたように0⇒1を作るという事で、無から有を創り出す事。
まず、起業家に必要なのは「感性(世の中を感じる事)」「発想力」と「行動力」。そして大衆を惹きつける魅力を発信する能力です。
学歴・学問や知識は要りません。
何があれば便利か?人々は何に不満を感じているか?何を求めているか?
感じ→発想し→実行する。簡単に言えば「新しい商品を創る事」です。

企業家に求められるスキルは10⇒1000にする事。
現在の物や規模を大きくしていく事。
人気ラーメン屋をチェーン展開する事。手で作っている物から機械で大量生産する事。10人のスタッフ会社を1000人の会社にする事。 そこに必要なのは、発想力ではなく、マネージメント手法・人事管理・経理事務・税金・資金管理等の経営学等の知識が中心です。

大学の経営学の博士や、MBAのライセンスを持っている博学者が、教室で人に教えるより、自分で商売した方が儲かる訳では無いのは理解できると思います。 知識だけでは新規会社を創っても儲かる商品が出来る訳ではないのです。
一方で企業家に求められるのは、感性や発想力ではなく、経営学のような「学問」が非常に大事です。

「経営コンサルタント」と称する人が、経営不振の町のカフェに「私がアドバイスしますよ!」などとコンサル契約を取ろうとします。
全く必要ありません。このレベルなら学問より発想力です。不振なのは経営手法ではなく商品に問題があるから。 確実に儲かる商品を知っている経営コンサルタントなら人に教えないで自分でやればいい。その方が儲かる。
私も随分騙されました。
一方で、会社規模が大きくなればコンサルは意味を成して来ます。自分が知らない知識や、必要な人材も紹介してくれるからです。 起業家は1日に10万売上を作る方法は分かっていても、月間に1000万売る方法は未知の世界だからです。
月間に1000万の売上げを取る為に300万の広告費を投入する事が正しいのかどうかは、業態別の判断であり、学問であり、 企業家やコンサルの仕事で、起業家では良く分かりません。

ベンチャー企業には「1億の壁」「3億の壁」が存在します。
ラーメン屋で例えるならば・・・・

1号店は大繁盛。そこで店舗展開して3店舗を一挙に出す。そこで大きな壁にぶつかります。 創業者である自分は一人だけ。他の2店では直接スープを作れない。味の均一化が出来ない。そこで評判が一気に落ちて廃業。

今度は3店舗はそこそこ上手く行ったとします。10店舗を目指す。そこで経営者に必要なのはラーメン作り以外の事。
人事(雇用契約)・資金繰り(銀行との折衝)・リスク管理(保健所等)・仕入、販売等の計算(企業運営)。 経営学の無いラーメン屋の親父が、突然スーツを着て毎日書類の山に追われます。
助けてくれる人望や経営の知識を身に着ける必要があり同時に企業家としての能力が無いと潰れます。
起業家が企業家になる事は簡単では無いのです。


一方で企業家が起業家の資質を持つのも難しいのです。

大塚家具の問題は皆さんも記憶にあると思います。
お父さんは、春日部の小さな家具屋を上場企業まで発展させた。 超一流の起業家であり企業家でもありました。
最近では経営手法が時代に合わなくなった。売上は下がる。一企業であればそれも時代の流れで仕方ないで許されるかもしれない。
しかし上場企業である以上、株主が存在し売上と利益の低下は許されない。

娘の大塚久美子氏が登場します。
一橋大学経済学部を出て、富士銀行、経営コンサル会社の設立という、華々しい活躍の後に大塚家具の社長に就任します。 有能である事は誰の眼からも明らかです。しかし、現在では経営の立て直しができずに非常に苦戦しています。

お父さんが作った、会員制にして従業員とお客が家具を見て店内を廻るという「商品販売スタイル」が時代に取り残されたのです。
そこで久美子社長は、会員制を廃止したり、若い人向けの店を創ったり、中古を扱ったりしています。 しかし現在まで解決に至っていません。

私は、この会社の問題は経営手法では無いと思っています。
大塚家具は家具自体が「商品」では無かった。「家具を買う事で変わるライフスタイルを提案する販売スタイル」が商品であったはず。 ネット販売の台頭で家具という商品を店舗で買わないという流通の大きな変革の波にのまれた。 今までの大塚家具の商品「販売スタイル」が顧客から見放されてしまった。だから全く新しい商品「新売り方」を創造しない限り難しい。
現在の顧客が望むものを創出する事が出来ていない。今の大塚家具に必要なのは企業家社長ではなく、起業家の仕事です。
経営学では決して解決しない。きっと企業家気質では答えは分からない。


久美子社長に求められているのは、企業家としての今あるインフラにおいての小手先の経営改革ではなく 起業家としてのゼロからの挑戦なのだと私は思います。
お父さんが町に1件の家具屋を創業した時のように・・・



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2017年11月10日付

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